【書評】『臆病者のための株入門』(橘玲著、文藝春秋)

書評
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コロナショックでネット証券口座の新規開設が急増しているそうだ。楽天証券は3月の新規口座開設が16万件を超え過去最高を記録し、つみたてNISAの口座数も増えているという。株価下落をチャンスと捉えて投資を考えた人や、将来への不安から資産形成を検討し始めた人が増えたことが伺える。一方で、証券口座を開設してみたものの、そこからどうしたらよいかわからないという人も多いと思う。そんな人たちにぜひ読んでもらいたいのが今回紹介する『臆病者のための株入門』(橘玲著、文藝春秋)である。

 

本書の読者として最適なのは、上記のようにこれから株式投資を始めようとしている人たち、もしくはいざ株式投資を始めてみたものの思っていたような成果を上げられない人たちであろう。株式投資に不安を感じている文字通りの「臆病者」の方や、自分の投資法はもしかしたら間違っているのではないかと思っている人にとっては目から鱗の内容で、いい意味でも悪い意味でも株式投資のイメージが変わることは間違いない。

 

最初に断っておくと本書には株価チャートの読み方や、企業分析の方法などは一切書かれていない。むしろ株式投資は偶然のゲーム(ギャンブル)であるとし、「必ず儲かるチャート分析」の類はインチキであり、「確実に儲かる長期投資法」というのもこの世には存在しないとしている。株価は毎日変動しているが、そこに規則性はない。よって、いくらチャートを分析しても、ただ単に長期保有をしても確実に儲かるということはないというのが本書のスタンスである。

 

それでは本書で紹介されている投資法はどんなものかというと、「インデックスファンドに投資をする」というものである。インデックスファンドにも色々あるが、本書では世界市場全体に投資することが経済学的に正しい投資法であるとしている。これは、資本主義は自己増殖するシステムであり、長期的に株式の価値は必ず上がるというファイナンス理論によるものである。しかし、すべての企業や国が同じように発展するわけではないので、世界市場全体に投資して、リスクを抑えながらも、株価上昇の恩恵を受けようというのがこの投資法の肝である。

 

インデックスファンドへの投資は非常に簡単である一方、そのリターン(儲け)が平均的というデメリットはある。なので、株式投資で一攫千金を目論んでいた人にとっては満足できるものではないかもしれない。だからと言って、安易にデイトレードやバフェット流の長期投資に手を出してはいけない。デイトレードで勝ち続けることは至難の技であるし、株価が2倍、3倍になる銘柄を素人が見つけるのも非常に困難だからである。

 

と言いつつも、著者はより多くのリターンを得たいという人への道筋も示してくれている。それでも、基本となるのは、やはりインデックス投資である。そこにデイトレードや個別株の長期投資を組み合わせて、市場平均を上回るリターンを得ようというものである。それぞれどのくらいの割合で投資をすれば良いか気になった方はぜひ本書を読んで見て欲しい。

 

本書で紹介されているインデックスファンドへの投資は、実は投資の王道とされている非常にスタンダードな投資手法である。ただし、インデックス投資の認知度はまだまだ低い。実際に金融商品の売り手からすれば、手数料が低い(その分顧客の利益に貢献できるわけだが)インデックス投資を積極的に売る気にはなれないだろうし、株の本を出している出版社としても読者受けを狙うためには、地味なインデックス投資よりも株価10倍、資産1億円を目指すなんて文言を並べた方がいいと考えるのは当然である。一方で、本書の著者である橘玲氏の本業は作家である。ある意味ニュートラルな立場だからこそ、聞こえのいい投資法ではなく堅実なインデックス投資を勧めることができるのだろう。

 

著者は経済学的に正しい投資法として、世界市場全体への投資を提唱している。なぜデイトレードや個別株の長期投資が経済学的に正しい投資法ではないのかという点についても非常に丁寧に解説されているので、興味がある方はぜひ読んでみてほしい。また、本書は投資について書かれたものだが、最大の資産は自分自身であるとしている。投資を考えるのは必要なことだが、自分自身の人的資本を活用し、より高い対価(給与)を得ることの重要性も併せて考えなければならないということに本書は気づかせてくれる。

 

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